弁護士のエッセイ

2012年08月01日
自転車で走る/自転車をいじる/自転車がふえる

自転車で100km走るというと途方もないことのようだが、ロードバイクだとすこし話しは変わってくる。
ロードバイクは非常によく走る。やはりこの点は魅力的なことで私は昨年ロードバイクに乗りはじめた。

はじめてのことなのでロードバイクを購入するところからはじめることになる。
その当時の私にとっては、よく走るとはいえロードバイクも結局自転車の端くれであって、その意味ではママチャリとそんなに違いはないとと思っていた。
車体の性能や素材が云々カンヌンみたいなことは全く考えてもいない。
しかし、サイクルショップの店長やロードバイク愛好者たちの話しを聞いてみると、一般に「自転車」という括りでイメージされるものとロードバイクは大分異なるようだった。
自転車として完成されたかたちで売られているもの(完成車と称される)も一応存在あるが多くは入門用といった位置づけで、ある程度のこだわりが生じてくると、というかむしろ多くのロード愛好者は、カーボン/アルミニウム/鉄(クロムモリブデン鋼。略称クロモリ)といったフレーム素材だけでなく周辺の各種部品類も独自にセレクトして自分だけの1台を組み立てるのだとか。

そしてその部品類へのこわだりが普通人には理解しがたい。
ロードバイクはママチャリよりも大分軽量で、鉄フレームでも自転車全体で概ね10kg未満、カーボンフレームに軽量パーツで武装すると6kgくらいの自転車も組み上げることができる。6kg台になってくると下手をするとプロ選手の自転車よりも軽い。
ツール・ド・フランスなどの大会では自転車の重量が6.8kg以上でないと規定違反になるとかで、そうした大会の選手たちは計測機器をいろいろとりつけるなどして自転車をわざと重くするそうだ。
通常人からすればすでに充分軽量な世界だが、ロード愛好者の追求心はとどまることを知らず、グラム単位でさらなる軽量化を目ざす。パーツの重量を図ってカタログ記載数値との誤差について議論している。
重量だけではない。たとえばハンドルの幅にも1センチとか0.5センチ刻みでサイズがある。ハンドルの幅が1センチ広かろうが狭かろうがどっちゃでもええように思うが、彼らにとってはそうはいかないのだ。

機材にこだわりはじめるとキリがないようだし、私の感覚として、そのような微細なこだわりをもつことはなんだか健全でないようにも思われた。(すくなくともその時点においてはそう思った)
私が下した判断は、アルミとしては最新の機種で、カーボンも含む全体の位置づけとしては中くらいのグレードにあたるフレームの完成車を購入し、パーツ類は一切いじらずにそのまま乗る、というものだった。
実際にも、足を金具で固定するビンディングペダルと専用の靴を購入した以外はパーツ類は一切いじらずに完成車の姿そのままで乗っていた。
また、素材やメーカーの違いなのか複数のロードバイクを所有している愛好者が少なくないようだが、チャリンコはどこまでいってもチャリンコにすぎず1台あれば充分、何台も自転車を所有するなどもってのほかだ。(すくなくともその時点においてはそう思った)

ロード愛好者でもある程度経験をつんだひとたちはヒルクライムなどに果敢にチャレンジしたりレースに参加したりといったアスリートな取り組み方をしているようだったが、すでに私はマラソンでは自己記録の短縮を意識した取り組みをしており、ある種のバランスとして、ロードバイクにはもっとリラックスした接し方をしていこうという気持ちだった。
それでとりあえずは川沿いのサイクリングロードでも走ってみることにした。
サイクリングロードなら自動車を気にせず安全に走ることができるし、道も平坦だ。
大川沿いを出発して都島で淀川に合流し、さらに京都方面に向かって25kmくらい走ると八幡市のところで川が木津川、宇治川、桂川に分岐している。このあたりでは淀川名物の「車止め」もなく、かなり快適に走ることができる。

(淀川名物の車止め)
サイクリングロードに自動車や原付が進入できないように設置された障害物。
自転車はいったん停車して車止めの隙間をくぐり抜けて通行することになる。

桂川のサイクリングロードを20kmほど行くと嵐山にたどりつく。大阪市内からは片道50km前後で、往復すると100kmくらいになる。
ロードバイクではこのあたりの距離かそれより長く走ると、ペースの速い/遅いに関わらず「それなりに走ったな」という実感がある。
こうした実感としては、ロードバイクの100kmはランニングでいえば20kmのイメージに近い。ロードバイク100km、あるいはランニング20kmを走破するには普段からある程度コンディションを整えておく必要があるし、ペースはともかくも走り切ればそれなりの達成感がある。飯やビールが格段にうまくなる、そういう距離だ。
ちなみに、トライアスロンではスイム1.5km-バイク40km-ラン10km(オリンピック・ディスタンス)、あるいはスイム3.8km-バイク180km-ラン42.195km(アイアンマン・ディスタンス)なので、バイク100km=ラン20kmというのは、科学的裏付けのない個人的感覚ながら、それほど突飛な捉え方でもなさそうだ。

 

▲嵐山・渡月橋で

自転車は道交法上は車両なので車道を走るべしということだが、自動車がガンガン走っている車道をロードバイクで走行することは実際には非常に危険である。 ロードバイク乗り自身だけでなく周囲まで巻き込む惨事が起こりかねない。
そうすると、ロードバイク乗りたちは走りやすい環境を求めて同じコースに集まりがちということになる。淀川も、車止めがあったり平坦すぎて面白くないという問題はあるが、安全で入門者向けにはいいコースだろう。
「走りやすい」という言い方をしたが、それは主として自動車の交通量が少ないということを意味しており、楽に走ることができるとはかぎらない。むしろロードバイク乗りたちは坂道が大好きで、「~峠」というようなヒルクライムの名所が各地にある。

要するに、自分がロードバイクで走るような場所には、ほかにもたくさんのロードバイク乗りが集まっている。
そうした状況ではやっぱり、他のひとがどんな自転車に乗っているか、とか、どんなウェアを着ているか、みたいなことも多少は気になる。
姿勢がしっかりしていて、よく整備された自転車に乗っているひとはやっぱりカッコイイ。そういう人はサイクルジャージやヘルメットもよく似合っている。
流線型エイリアンのようなヘルメットは安全面から必須とはいえなかなか似合わない。
ところがカッコイイ人がかぶると、その全身から醸し出される圧倒的オーラゆえにヘルメットまでもがキマッてしまうのだ。
そういったロードバイク乗りがゆっくり走っていても、遅いのではなくて「あぁ、今日はわざとゆっくり走っていらっしゃるんだな」といった風情で貫録勝ちになる。

自転車の見た目でいえば足回りは非常に重要だ。車体やウェアとのコーディネートを意識してタイヤをちょっとカラフルなものに変えるだけでもだいぶ印象がかわってくる。
それにホイール。ディープリムといって、エアロ効果を狙っているそうだが、側面にブランドのロゴを入れることができるくらいにボリュームをもたせている。ホイールをこれに変えると印象が一変して非常に強そうな自転車になる。
ほんとうにエアロ効果などあるのかどうか真偽のほどは定かではないが見た目だけでも購入する価値がある。
やはり気に入った道具をつかうことは大事だ。足回りを変えるとロードバイクに対するテンションも一気に高くなる。自然と走りたい気持ちがもり上がってくるし、ガンガン走っていくうちフォームに意識が行き、ハンドルやサドルの微妙なセッティングが気になりはじめる。
ロードバイクにつきもののお尻の痛みという悩みもあり、セッティング位置だけではなく、サドルそのものも変えてみることにした。座面が直線的かカーブしているか、パッドの厚みがどうか、幅が何ミリかといった観点で、同じブランドでもじつにたくさんのサドルが用意されている。新しいサドルを選ぶために10個ちかく「試着」させてもらった。
ちょっとした違いだが、確かに乗り心地が変わってくる。
ではハンドルはどうか。私の体型では幅41センチのハンドルはややオーバーサイズのようで、幅40センチでカーボンの軽量なものに交換することにした。
変速機やブレーキなど「コンポ」と総称される機械部分はそのままだし、サドルを取りつけるパイプ状の部分(シートポスト)や、車体本体とハンドルバーを接続する部品(ステム)はそのままだが、パッと見の外観を大きく左右する部分は結構いじることになってしまった。
車体のフレームを入れ替えることも可能だが、それではもはや自転車としての同一性を欠くことになる。アルミにこだわりをもった「キャノンデール」というメーカーのフレームで、結構愛着もあるのでさすがにフレームはこのままでいきたい。

▲武庫川で

ただ、正直なところ、カーボンやクロモリといった他のフレーム素材のロードバイクも遅かれ早かれ買ってしまうと思う。あるメーカーのクロモリフレームの2013年カラーが近々明らかになるが、気に入った色があれば早速注文するつもりだ。
さらに白状すると、ロードバイクを1台買った後、クロモリフレームのシングルスピードを追加して購入しており、すでに自転車2台と同居している。
シングルスピードというのはパッと見にはロードバイクと似たスポーツバイクだが、変速機能がない。機構がシンプルなのでメンテナンスも楽だし気軽に乗ることができる。

以上のような次第で、当初の精神はどこかにいってしまったが、最近は自転車が私の関心事になっている。

弁護士 森田 豪