弁護士のエッセイ

2013年11月01日
挫折と再生 ~篠山ABCマラソン

先日大阪マラソンが無事開催され、今年もマラソンシーズンが始まった(私は当選できなかったが)。それで、今回のエッセイは前回とは違うネタをと思っていたが、昨シーズンの篠山ABCマラソンの顛末と今シーズンに対する私の決意を記しておきたくなった。興味がない方には非常に申し訳ないが(そういう人は読まないだろうが)ご容赦いただきたい。
というわけで、今回もマラソンネタである。

2013年篠山ABCマラソンは3月3日の寒い日曜日に開催された。大阪から会場の兵庫県篠山市内までの高速道路の横にはまだ雪が残ったままの場所が沢山あった。私のフルマラソンの経験は10月と11月という温かいというか、マラソンレースとしてはむしろ暑い時期に行われていたので、寒風吹く中では初めてのフルマラソンであった。寒さ対策としては、上半身はアームウォーマーにネックウォーマーをつけていたが、下半身はすねまでのスパッツだけであった。この寒さ対策の貧弱さがレース後半の悲劇をもたらした一因となる。
スタートは順調であり、特に渋滞もなく気持ちよく走り始められた。大阪マラソンと違い、コースはほぼ農地の横か山道を走るものであった。参加人数が比較的少ないこともあり、道路を広く使えるためである。1キロあたり5分20秒という自己設定タイムを守りながら5km、10km、15km、20kmは問題なく過ぎていった。沿道では地域の子ども野球の選手達がユニフォーム姿でチョコレートやアメを手に「頑張ってください」と声を掛けてくれる。順調で思い通りの展開であった。20kmを過ぎたあたりから上りがきつくなり始めたが余裕は失っていなかった。
しかし、約30kmの地点で、突然、足に痙攣が起こった。それまではこの種の不幸に対する予兆は全くなく、35km付近の特別ジュース(このレースではトップランナーのように自分の飲料を準備できる)を楽しみにしていたのにである。ストレッチをするが石のように固まった筋肉は元の状態には戻らない。その後の12kmは地獄だった。走り続けられず歩き出す。少しよくなったかなという状態でゆっくり走り始めてみるが、また痙攣が起こり、ストレッチをして歩き始めるという繰り返しである。何回これを繰り返したか覚えていないが、1kmごとにしたとして12回である。吹き下ろしの寒風は容赦なく冷えた体に襲いかかる。走っていれば寒くないが、歩く程度ではこの軽装では耐えられない。次々に後続のランンナーに抜かれながら、なんとか4時間33分でゴールしたが、初めてのフルマラソンを下回るタイムであった。大げさかもしれないが、本格的に走り始めた後それなりにタイムを伸ばしてきていた私の初めての挫折であった。
それぞれに達成感を感じている風な一緒に参加した数名の友人たちから逃げるように一人で篠山市から大阪にバスで帰った。入試の合格発表を見に行って一人だけ不合格だった気分だった。帰る道すがら、なぜ、このようなことが起こってしまったのかを考え続けた。このような惨めな結果に終わった原因は、夏の間にアキレス腱を痛めて練習ができなかったこと、低い気温のために足が冷えた状態であったこと、最初からペースが速すぎたことなどが考えられるし、その他にも原因はあるだろう。これらの原因を一つ一つ潰していって、次回のレースで目処をつけた後、2014年篠山ABCマラソンで再生を果たさなければならない。

今年の夏はそれなりに走り込むことができたし、体重も落とすことができている。準備はある程度整っており、まずは12月1日の赤穂義士マラソンに参加して、忌まわしい記憶を払拭しなければならない。そして、このエッセイを書いている現在ではエントリーは始まっていないが、2014年3月2日の篠山ABCマラソンに出場してリベンジ、すなわちサブフォーを達成するのである。
赤穂義士マラソンでの戦略は、前半は逸る気持ちを抑えて遅めの自己設定タイム(5km28分から29分)で入り、後半はゴールに向かって速度を上げていく(5km27分から28分)というものである。赤穂義士マラソンは赤穂海浜公園内の1周5kmのコースを走るためいささか退屈であろうが、同じコースを何度も走ることからこの戦略を試すにはうってつけだろう。地形によるスピードの変化はないからである。ただ、このように前半をゆっくり入ることは勇気が必要である。最初にある程度のスピードで走れば後半に落ちてきても前半の貯金があるが、最初から遅いスピードで始めてそのままゴールしてしまえば絶望的な結果になることは明らかだからである。それでも、前回の反省を踏まえてこの戦略でいこうと思う。可能な限り準備できるベストな(もしくはセカンドベストな、そうでないとしてもベターと思える)状態でスタートに立ち、ペース配分、すなわち42.195kmのリスクマンージメントをやり遂げるのである。リスクを取りすぎても、取らなさ過ぎても思った結果は得られない。その点はゴルフも同じであろうが(というか、人生の様々な場面で妥当すると思うが)、マラソンはゴルフと違って数週間後にもう一度というわけにはいかない。やり直せないことはないが、それなりに時間と手間が必要である。きちんとした準備と正しい戦略がなければならない。
3回のうち1回思うように走れなかったからといってそう熱くならなくてもという苦笑まじりの声があろうことは承知している。しかし、自分が満足するレース展開ができるまでマラソンをやめられないというのは偽らざる私の本心であり、51歳にして自分の肉体だけで勝負するスポーツにプライドをかけて取り組めるというのはそれなりに幸せなのかもしれないとも思っている。

弁護士 池田 佳史